北杜市に「ぐうたら村」という面白い学び場がある、という話は以前から聞いていたのですが、このたび日本を代表する建築家・藤森照信氏による建物ができた!ということで、ぐうたら村(株式会社ぐうたLabo)に、共同代表の小西貴士さんをお訪ねしてお話を伺いました。

◉Local Stay八ヶ岳:小西さんは共同代表で、もうお一人の代表は、著名な教育学者の汐見稔幸先生ですね。

◉小西さん:僕は管理人ですね(笑)。この場所は、保育や幼児教育をされている方たちに来ていただいて、場を一緒に創るワークをやったりしながら、自然のあり方から人のあるべき姿を学んでいただくもので、僕はここを管理している。ここには教育のプログラムや器具や教材はないんです。

保育・幼児教育の学び直し、学びほぐしの場ですね。

これからの時代を生きていく人を育てる保育者が、人はどうあるべきかを考える時に、スイッチが入る場が八ヶ岳にあったらいいねということで作りました。

建築家・藤森照信氏設計の学び舎。2021年5月完成。
寄付を募り、有志の皆さんで作業したそうです。
外壁は国産材の杉を焼いて表面を炭化したもの。
防虫防火対策にに良いそうです。
建物内部は杉板張りのあたたかみのある空間。
天井の照明には、みんなで描いた和紙があしらわれています。
大きな暖炉も手作り。
ぐうたら村では、既製品をなるべく使わないそうです。

今は世界の潮流として、地球環境が変わり、自然エネルギーへの転換の時で、自然は循環で成り立っているのだと学ぶ教育が、幼児教育の現場にも起きている。しかし学びのフィールドには自然が足りないですし、実際に自然から学ぶということになっていないケースが多いのです。

僕たちは、どこに向かって人を育むのかが大事だと思っているんです。

ここのグランドデザインはあるんですが、ここでは保育者が、人のあるべきありように気づくために、一緒にこの場を創るプロセスを大事にしています。

屋外ですとやはり天候に左右されるので、藤森先生によるこの建物ができたことは助かります。たくさんの方から寄付を募り、施工は大工さんにお願いしましたが、保育者の方、ボランティアの方も一緒に作業をしてもらいました。

ぐうたら村では、保育者が動物の世話や畑での作業を通じて、循環・共存・相互依存・共生といったことを考えるきっかけを掴んで欲しい。それを園に持ち帰って教育で実践していただきたいのです。

小屋もみんなで作ったもの。
土をこねて固めた薪窯がありますね。
ご飯を炊くかまど。
テーブルには可愛い花がさり気なく飾られていました。
水生植物、昆虫が宿る池も作りました。
落ち葉や野菜くずからできる堆肥は、
モグラやカブトムシの棲家でもあることを知る場所。

鶏などの動物のお世話で命を育むことは学べるのですが、掃除や餌やりのお世話が要点になってしまっている。それ以外の、自然は循環していて命を育んでいるということに気づいて欲しいんです。小屋の中で糞が堆肥になっていくが菌が働いていて臭くない。糞が植物を育て、その植物を食べて鶏が育つ。鶏の糞が循環を生んでいる。

正多面体は丈夫でバランスが良いことに気づいてもらう。
あえて説明したり教えたりしない。
雨水が鶏の飲み水になる。
地球は循環していることに気づく。

畑は自然農と呼べるかどうかわからないんですが、慣行農業ではない、農薬を使わず循環を大切にしたやり方でやっています。

あえて雑草をがんばって刈り込まず畝を作らない、
自然農スタイルの畑。
たくさんの種類の野菜やハーブが植えられています。

例えば自然の活動は、必ずしも日当たりの良い場所だけで行われているわけではないんですね。建物の裏にある日陰にはミョウガが伸びている。土の中にはモグラがいて活動している。こうしたことも発見して欲しいので、ワークショップに取り入れています。

日陰にはミョウガが元気よく生い茂っていました。
日陰を好む植物もあるということ。
モグラの巣穴。土中に生きる生物もいるということ。

こうしたことを、自然環境の中で気づいてくれるのがいいと思っているんです。

森に行くと、命の原理原則があります。森は自然そのものです。しかしここでも同じことが起きている。

人はより良く生きるために都市を作ったわけですが、やはり都市にも同じように命の原理原則があるわけです。子供たちに、そうしたことに気づいてもらうことが教育なんだろうと思うんです。

◉Local Stay八ヶ岳:素晴らしいですね。自然のありようから人のありようを学ぶ場なんですね。学びとして提供する内容は、小西さんが考えられているのでしょうか。

◉小西さん:主催する講師の方が考えたり、僕たちが提供したりといろいろです。ただ、場所だけを貸すことはやっていないんです。今のところ、お母さんたちや子供たちへの学びの提供もやっていません。保育者、幼児教育者だけを受け入れています。

◉Local Stay八ヶ岳:経営はどのようにされているのでしょうか。

◉小西さん:代表の汐見が経営責任を持てるよう、株式会社にしています。私を含めてスタッフの報酬は若干出ていますが、他の自分の仕事も兼務して生計が成り立っているといったところです。お手伝いのボランティアの方もいて、ゆくゆくはNPOにすることも考えてはいます。

畑で収穫した野菜を近所のカフェが収穫に来て買ってくださったり、育てたハーブを蒸留して使いたいと買ってくださったる方がいたりと、畑からの売り上げも得ています。支えてくださる方には感謝ですよね。

ここを始めて、今年でちょうど10年たったところです。村づくりと称して保護者の方にお手伝いをお願いするワークの日もあります。この場を作りながら土地と建物を成立させていくのが大変でしたが、有志のみんなで作ってきました。

ここではワクワクしながら学んでもらえたらと思っています。学びは楽しいものなんだっていうことを伝えられる場にできたらいいと思いますね。

手作りの図書館。お籠りできる場所ですね。
ワクワクでき、ほっとできる。
焚き火を炊き、語らう場所。
ここではアート表現もしてもらうそうです。
ご家族や仲間の皆さんで壁塗り中。
古民家の解体現場からもらってきた壁土を再利用しています。
昔の壁土は丈夫なのだそうです。

***ぐうたら村さんは、作られたプログラムやカリキュラムではなく、命そのものである自然について、この場だからこそ学べる場を、丁寧に創り出しているんですね。

八ヶ岳だからできること、八ヶ岳に来ていただくからできる学び。ぐうたら村さんの人を慈しみ育む心が、これからの社会を生きる子供たちに伝えられていく道筋が見えるようです。あたたかな思いに満ちた、気持ちの良い場所でした。


■ぐうたら村(株式会社ぐうたLabo)
https://gutara-v.net/
山梨県北杜市高根町東井出5003
0551-45-8171
※ぐうたら村では、共に村づくりをしてくださる会員を募集しています。
 詳しくはホームページをご覧ください。

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